最近の裁判例 グーグルに対する削除命令
平27(モ)25159号 平成27年12月22日さいたま地決
検索エンジン管理者に対して、過去の犯罪歴の検索結果の削除を命じた事案
ざっくりした事案は下記のとおりです。
Xが児童買春で逮捕→罰金刑→納付
3年後 グーグルでXを検索すると逮捕等の情報がヒット
Xがグーグルに対して検索結果がヒットしないように請求
Xが削除して欲しい情報は、検索結果の欄に表示された各ウェブページ上に存在し、グーグルには各ウェブページの管理権限はありません。この点で、各ウェブページの管理者に対して、情報の削除を請求する事案(例えば、2chに記載された情報を、2chに対して削除を要求する事案)と異なる側面を有しています。
本件でもグーグルに対する削除の請求が認められても、ネット上の各ウェブサイトにはXが削除して欲しい情報が存在していることになります。
しかし、ネット上の情報にアクセスする際は、大多数の人にとって、検索エンジンで検索することが通常の行動であるといえます。となると、検索エンジンで検索結果が表示されなければ、容易にXの逮捕歴等の情報にアクセスできないことになり、Xの目的は達成しているとみるべきでしょう。各ウェブページの管理者に個別に削除を請求するよりも効果的ですし、今後、ネット上の情報を削除する方法としては主流になっていくものと思われます。
本件は結論として、Xの請求を認めています。
裁判所は、「更生を妨げられない利益」が認められるので、「忘れられる権利」も認められるとし、削除を認めるか否かは、受忍限度を超える権利侵害があるといえるかどうかで判断しています。
具体的には、侵害行為の態様と程度、侵害行為の公共性の内容と程度・・・・・と多くの要素を考慮して全体的に判断しているようですが、結局のところ、価値判断によって決めるしかないと思います。
では、受任限度を超えていて削除が認められる場合とは、どのような場合でしょうか。
Xの名前を聞いてもほとんどの人が「誰それ?」となり、事件の概要を聞いても「そんな事件あったかな?」となっているほど期間が経過していれば、削除が認められやすいでしょう。もちろん事案の重大さ、被害の程度も影響しますが。有名人の事件であったり、事件名にニックネームが付いた事件だと、削除されにくい方向になるでしょう。
反対に、「誰それ?」「そんな事件あったかな?」となっている状態でも、検索して調べることができるようにすることに意義があれば削除されないでしょう。
ある職業についている人が業務に関連して行った犯罪は削除されにくいことになります。また、公的な職務、高度の倫理観が期待される職業の人は、たとえ業務とは関係の無い犯罪であっても削除されにくいことになるでしょう。
感覚的には、人の記憶力や噂を基準にすれば既に忘れられている状態にあるかどうか、そのうえで、忘れていることをわざわざ思い出させることに意義があるかどうか、という価値判断で削除の可否が決まるようになると思います。