最近の裁判例
平成27年6月29日東京地判
退任させられた取締役から会社に対して損害賠償請求が認められた事案
ざっくり言うと、以下のような事案です。
家族経営の同族会社内で、代表取締役Aと取締役Bの意見が対立。
支配株主はA。
Bの取締役選任から4年ほど経過。
取締役の任期は10年。
Bを排除するため、Aは、臨時株主総会で定款を変更して、取締役の任期を10年から1年に変更。
Bを退任させることができたという事案です。
Bを排除したのは、「解任」ではなく、形式的には任期満了による「退任」です。
争点は、2つ。①このような定款の変更で退任させることができるのか、②退任させられたBは会社に損害賠償を請求できるのか。
①は退任させることができるという判断です。支配株主であれば株主総会でも解任できるので、定款変更による退任でも良いだろうという判断でしょう。
問題は、②です。
前提として、正当な事由なく会社から「解任」された取締役は、会社に対して損害賠償を請求できます(会社法339条2項)。
今回の裁判例でも、おそらく「解任」すると会社法339条2項で損害を支払わないといけなくなるので、それを避けるために「解任」ではなく、「退任」させたのだと思います。
裁判所の判断は、「退任」でも、会社に損害賠償を請求できるというものです。法律構成は、339条2項類推適用。形式的には「解任」ではないが、この事案の「退任」は、実質的に「解任」であることを重視したようです。
結論として妥当だとは思いますが、今回の事案では元々取締役の任期が2年だったところを10年に変更し、その後、意見が対立したので、1年と変更したようです。
また、創業者が死亡してから3年後に意見が対立して、紛争になっています。
同族会社では、家族や親族なので、安易に取締役の任期を長く設定しがちですが、仲の良い親族関係も5年、10年のスパンで見れば、そこまで安定した関係ではないことが多いです。また、相続関係でもそうですが、人の死亡によりこれまで表面に出てこなかった確執などが顕在化することもあります。
取締役の再任手続きには一定の手間がかかりますが、たとえ親族関係であっても、あまり任期を長く設定しないということがリスク管理として重要になります。