最近の裁判例 平成27年10月6日甲府地判
平成27年10月6日甲府地判
契約が成立していない場合に不法行為に基づく損害賠償請求が認められた事案
ざっくりした事案は以下のとおり。
A社は食品製造会社
B社は食品販売会社
両者は従前からの取引関係(基本契約あり)
平成21年ころ
B「販売を拡大する計画がある。新しいC商品を販売する。新商品のラインナップはこんな感じ。Aで製造してください。新しい機械設置できますでしょうか」
A 新しい機械購入
平成23年になっても新商品の製造の指示無し
平成25年 基本契約終了
AからBに新しい機械の購入代金の損害賠償請求
裁判所「Bは新しい機械の購入代金の半分をAに支払え」
いわゆる契約締結上の過失の問題です。債務不履行責任は契約が成立していることが前提です。契約が成立していないので、415条を使って損害賠償は請求できません。
しかし、契約が成立していない場合でも、価値判断として損害賠償を認めることが妥当な場合があります。契約が成立すると誤解させた場合や、契約が成立するだろうとの信頼を保護すべき場合です。
契約が成立していないので、使用する条文は709条です。
本件は、契約が成立するだろうと信頼した場合であり、結論として妥当でしょう。
判断基準は、「交渉が成熟し契約の締結について強い信頼を抱く状態になっていたかどうか」、です。
長年にわたる取引関係であったこと、基本契約があったこと、詳細な商品のラインナップを提示していたことが重要視されています。
受注する側は、交渉過程を形になるように残しておくこと、新たな設備投資をする場合は発注側に確認を取ることがリスク管理として重要になります。
発注する側は、交渉が成熟した段階においても、未確定の発注予定であることを明示すること、特に受注側に新たな費用が発生する場合にはより注意喚起をすることがリスク管理として重要になります。また、これらのことは従前からの取引関係によるパワーバランスにも配慮することが必要です。
本件では、平成25年に基本契約が終了しています。詳細な事実関係は不明ですが、基本契約が終了したから訴訟になったのではなく、新しい機械の購入代金の負担をめぐって両者の関係が悪化し、基本契約が終了するにいたったのではないか、との推測も可能です。そうであるならば、両者の注意不足により、両者とも取引先を失ったことになります。
従前からの取引が長いほど、新規の契約も感覚で成立させてしまうことが多いとは思いますが、やはり慎重な判断をすることが必要です。